それでもそんな君が好き

「……あの、みんなの目が気になるし、手離してくれないかな?」


廊下に出ても手首は掴まれたままだった。
無難な理由をつけて、できるだけ優しい言い方をしてお願いする。
しかし振り向いた桐谷くんが手を離すことはなかった。


「無理。離したらお前逃げるだろ」


まるで私の気持ちがわかっているかのような言い方。


「逃げないよ」


ここで急に走り出したらみんな何事だって思うだろうし、その理由をごまかすのも大変だし。
というかまず、桐谷くんが走って追いかけてきたらあっけなく捕まるだろうし。


……なんて、冷静に考える私もいるけれど、本当はドキッとした。


ここまで来たら逃げようとは思ってない。
それは本当。
桐谷くんが私と話したい事柄は絶対昨日のことだろうし、私自身も話したかった。

だけど頭の片隅では、桐谷くんの手を振りほどいて逃げてしまいたいって思う自分がいた。
だから彼への返答は、本当と嘘の気持ちが混じったものだ。