「貴方のお望み通り破談になって、ご満足でしょう?
 綺麗な身になりたかったんですよね?
 どうして会いに来るのか、理解出来ないな
 厚顔無恥って言葉を知っていますか?」

「……」

シャルに、こいつに。
クリスティン様を宥め、その状況から逃れるためだったが、
『綺麗な身になってから貴女を愛したい』と
言ったのを聞かれていた。


それでシャルは婚約を解消したのだ。

親父からはその話は聞いてなかった。
理由は俺の不貞と教えられたが、別荘に泊まり続けていたのをそう言っているのだと思っていた。
シャルはクリスティン様の名前も出していなかった。


シャルに会えば、何とか出来ると思っていたのだ。
これからはずっと側にて、騎士団も辞める、
君と一緒にガルテン伯爵家にこの身を尽くすと
言えば、彼女は許して復縁するだろうと。


黙ったまま立ち竦んでしまった俺を、ギリアンが睨み付けた。

文字通りチビの頃から、俺はこいつが嫌いだった。
シャルの邸やガルテン領で、何度も顔を合わしている幼馴染みだ。

いつも何を考えているかわからない、3歳年下の生意気なやつ。
それなのに、俺の兄達には可愛がられていた。
俺とシャルが一緒にいると、よく目が合った。
その目付きが気に食わなかった。


今なら。
その目が何を訴えていたのか、よくわかる。

俺はギリアンに憎まれていたのだ。


「厚顔無恥ってあんたの事だよ、ノーマン」

それだけ言うと、俺を残してギリアンは行ってしまった。


もう、愛されることも憎まれることも無くなった。

俺の側には誰もいない。