ギリアンは立ち止まって俺の側まで来てくれたが、相変わらず無愛想なチビだった。
本当はこいつに頼るのは嫌だったが、仕方なかった。


「シャルに会いたいんだ
 呼んできてくれないか?」

「シャルは学園にいません」

「休んでるのか?」

前のめりになって尋ねる俺に、ギリアンはバカにするように笑った。


「ご家族からは教えてもらってないんですね?
 シャルはもうこの国にいません
 レオパードに留学したんです
 貴方の顔も見たくないから、って」

「……」

呆然とする俺にギリアンが続けた。


「レモンタルトを食べたシャルは、とても幸せそうでした
 婚約者と会えない彼女を、周りは皆心配してました
 食も進んでいないと、叔母上も気にされていたので、姉がカフェに誘ったんです」

「カフェ……」

声が震えた。
あの時、あの場にシャルはいた?


「レモンタルトを一口食べたら急に顔が明るくなりました
 口に合ってよかったと、姉と安心しました
 ……まあ、貴方にとっては、どうでもいいことですよね?」

「そんな……」


言葉が出なかった。


「結局シャルが食べられたのは、その一口だけでしたけど
 誰かさん達がふたりきりの世界を演じ始めたから」