夏は半ばを過ぎていました。

婚約者のノーマン様は初恋のクリスティン様と
彼女の別荘でバカンスを過ごされていました。

バカンスのシーズンなのに一度も会っていない
私達のことに周囲が気付いたのは、夏が始まって直ぐの頃だったでしょうか。

ディランお兄様にもご心配をおかけしていたのでしょう。


「同僚からだぶってしまったと、チケットを買わされたんだ
 一緒に行ってくれないか?」

恋愛劇や悲劇なら観たくなかったのですが、それは喜劇でしたので、ご一緒させていただきました。
笑わせてやろうというディランお兄様のお気持ちが嬉しかったのです。

観劇の幕間にお兄様から、これからのお話をうかがいました。
来年の春先に王宮の上級文官試験を受けるご予定だと、仰いました。


「それでは、今からお勉強が大変ですね」

「シャルの卒園試験のサポートは変わらず出来るから、心配しないで
 卒論のテーマを何にするか決めたら、すぐに連絡して
 決めるのに悩んだら、相談に乗るからね
 資料を集めるのは任せてくれていいよ」

「上級試験は合格するのがとても難しいのですよね?
 お勉強が大変なのに、私に時間を割いていただくのが申し訳なくて」
 
「そんな他人行儀なことは言わないでくれよ
 シャルの卒園まで、ちゃんと手伝いたいんだ」