少年の母親は少女の母親の親友だ。

彼女なら娘を苛めることはない。
ただそれだけで、母親は三兄弟の誰かと少女を
婚約させようと思ったのだ。


少年との婚約を聞き、母親のすることには何事にも文句をつける祖母が珍しく賛成した。

『あそこの嫁は男ばかり3人を、3年ずつ離して産んでいる、立派な男腹だ
 その血を引いてる息子だから期待できる』

男腹という言葉は初めて聞いたが、あまりいい
気分はしなかった。


父親は真っ赤になって祖母を怒鳴り付け、
母親は部屋を出ていった。
泣きに行ったのかもしれないと、少女は思った。

いつも少女に優しくしてくれる少年の母親のことも汚された気がした。

(私が男の子だったら……
お母様はもっと幸せだったかも)

少女は物心がついた頃には、時々感じていた。


貴女が男だったらと、母親が嘆いたことはない。
父親もそんな素振りを見せたことはなく、
両親は少女に愛されている実感を与えてくれる。


だが少女は時折、繰り返して思う。


だから少女は決めたのだ。
必ず少年との間に男児を産んでやる。
そして、祖母に言ってやる。
 
男の子を生めたのは、全てお母様のお陰なのです。


少女は夜空の月を見上げて願った。

(ノーマン様と必ず結婚させて下さい)