そのラストがハッピーエンドなのか、少女には
わからなかったが、美しい絵と物語は少女の心を捉えた。


この世には、どうにも出来ない身分差というものがあることを、聡い少女は既に知っていた。

神とは、身分の高い者を表しているのかもしれない。

少年が見上げた月は、貴い人達が住む世界。

人は自分の身分を弁えなければ、命はない。

絵本の体を取りながら、階級制度を皮肉っているのかもしれない。



大人向けの絵本だったが、書店でこの絵本を
見つけて表紙のお姫様に目を奪われた。
母親は子供向けの絵本だと思って購入してくれた。

いつか遠くない未来に、この絵本は書店では手に入らなくなる気がした。

少女には余計なことは黙っている賢さがあった。



誰も気づいていないだろうが、少女は人の機微に敏感だった。

柔らかく気弱な印象の少女は自分を主張せず、
他人の決定に黙って従った。

だから周囲の人間は少女を誤解していた。


小柄で幼く見えていたが、中身は年齢より大人だった。
目の前の2歳年上の少年よりも、大人だった。