初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

行きの馬車ではノーマン様は楽しげに話をしてくれました。

騎士団に提出する所属希望用紙に第1騎士隊と書いたこと。
提出後に行われた面談で面接官と話が弾んだこと。


「面接官の感触は悪くなかったから、多分第1に
 行けると思うんだ」

決定通知が楽しみだと、語るノーマン様に私の胸は小さく痛みましたが……

(もし、希望通り第1に決まってお仕事が楽しくなってきたら彼はまた辞めたくないと、言い出すのではないかしら……)

昔と変わらずノーマン様の事を愛していました。
彼と結婚したいと、切実に願っていました。


……ですが
彼が私の為に、
私達の結婚の為に、
自分の夢を諦めてくれると、信じきれない私が
いました。


帰りの馬車の中、ノーマン様の無言の圧力に私が耐えきれなくなってきた頃、ようやくノーマン様がこちらを向かれました。


「君が遅れなければ……」

小さくですが、忌々しそうに彼がそう口にして。

遅れなければ、どうだったというのでしょうか?
クリスティン様への断罪に立ち会っていれば、 
何かが変わったというのでしょうか?


彼に問いたい言葉はたくさんありました。
ですが、これ以上雰囲気を悪くしたくはありませんでした。
それが溢れ出ないように、私はただただ俯いていることしか出来ませんでした。


ノーマン様が王宮から戻る馬車の中で話されたのは、それきりでした。
邸に私を送り届けるまで、彼が言葉を発することはありませんでした。


私にとって、本当に忘れられない夜になりました。