灰色の目をした男に話せと、言われたが。

何を話すんだったかな……
強い酒に酔いすぎた……
頭の中がもやもやして……


「ちっ、効き過ぎたかな」

目の前で小さく舌打ちをされた。

効く?
確かに男はそう言った。
それで酒に混ぜて薬を盛られたことがわかった。


逃げないとやばい。
俺は立ち上がろうとしたが、直ぐに男に肩を抱かれて拘束された。


「へぇ、もう酔っちゃったんですかー
 まだ1軒目ですよ
 夜はこれからじゃないですかー」

男は周りに聞かせる様に大きく陽気な声を張り
上げる。

(こいつこいつこいつ誰だ誰だ誰だ)


片手でふらふらな状態の俺を拘束して、片手で
勘定を支払っている。
普通の男じゃ、こんなことは出来ない。

(助けて助けて助けて)

恐怖で頭の芯が冴えてきてるのに、声が出ないのはどうしてだ?


「ちょっとぉ~お兄さぁん、
 飲ませ過ぎだよぉ~」

女給がしなしなと背の高い男を見上げて言う。
男がおつりをいらないと言ったので、媚びているのだ。


「お兄さんも、西の人でしょぉ~?
 あたしもそうなんだぁ~
 サービスするからさぁ、
 明日もそっちのお兄さんと一緒にきてねぇ~」

店の外まで出てきて女が愛想を言った。
男は振り返りながら手を振った。

俺の肩を掴んでいる反対の手は緩みもしない。