王宮の昼下がり
少女は腹を立てていた。
こんな気持ちになったのは久しぶりだった。

少女の周りでは、わざわざ口に出さずとも
物事は良い方向に動いた。
良い、そう少女にとって都合良く。

少女は自分の事を幸運な女の子だと知っている。
父親は権力と金を持ち、名前も覚えられないくらいの数の使用人にかしづかれ大事にされている。

少女の外見は赤ん坊の頃から『可愛い』と言われたが、最近は『美しい』と形容されることの方が多い。

そして、少女の婚約者はこの国の第1王子で才気煥発な少年だ。
彼は再来年、立太子の儀式を受ける。

少女は自分が王太子妃となり、ゆくゆくは王妃になることを当然のように受け入れている。
だから。
高位貴族の子供達のみのお茶会で、他の令嬢達から王子のことで羨ましがられても、特に何も思わなかった。


少女の家はこの国の貴族の頂点に君臨し、その
血筋はさかのぼれば、十何代か前の国王の弟だ。
長い歴史の中で王家の姫も何人も降嫁している
家門の自分が。
他の令嬢と同じであるはずはないのだから。


父親からも母親からも
自分は『選ばれし人間』と言われている。
『この家に相応しい人間になる為精進しろ』とも言われたが、その精進の意味はわからなかった。