ティルレット王国へやって来て、3日が経った。
 自分の現状を受け入れるのに、混乱して一日は部屋に引きこもって泣いた。
 あとの一日は近所を散歩して過ごした。

 シナモンの話によると、私が住んでいる町は首都から少し離れたところにあるらしい。
 離れているとはいえ、田舎というわけではなく。
 商人が多いので、店が多く連なっていて。商店街を練り歩くのが楽しいとシナモンが言っていた(私はまだ行ったことがないけど)
 かといって、貴族がいないというわけではなく。
 首都の鬱屈とした空気が嫌だという貴族が、この町でちらほら暮らしているという。

 3日経って、ようやく私は気づいた。
 …働かなければ。
 テイリーの偉大なる力によって、家までは与えられたけど。
 この先、どうなるかわからない。
 ある程度、働いてお金を貯めておかなければ、どうなるかなんてわかったもんじゃない。

 シナモンにだってお給料を与えなければならないと本人に話すと、
「お給料はテイリー様から頂いているので大丈夫です」
 と、あっさりと解決した。
 王族、万歳と思ってしまう自分は悪い奴なのかなと少しばかり反省。

 私が出来ることと言えば、ピアノを弾くこと。
 ピアノを誰かに教えることくらいしか、出来ない。
「商店街に職業案内所ってあるのかな?」
 朝食を食べながら、シナモンに質問すると、
「ああ、ありますよ。ご案内しましょうか」
 そう言って、シナモンは目の前に輪切りにしたパイナップルを置いた。
 この国に来て、電子機器が一切使えないどころか、電気・ガスが通っていない国というのに驚いて絶叫したものだ。
 かろうじて、水道はあるみたいだけど。
 …もう本当に別世界に来たような毎日を送っている。

 一人だったら、帰りたいと泣き叫んだところだが、
 自分が欲することは全てシナモンがやってくれるので、困ることなんて一つもなかった。
「うん、食べ終えたら出かけるから」
 シナモンの作る料理は美味しい。
 焼きたてのフワフワした食パンをちぎって口に入れながら。
 ああ、幸せだなという感覚になる。