真面目な顔をして「妖精の勘」と言い出してきた女の子を目の前に、私は呆れ返った。
 そんなんで、よくもまあ今まで生きてきたわねえ。
 左手で頭を抑え込んで。
「そういえば、貴女(あなた)の名前を聞いてなかったわね」
 緑目の男の一件があったせいか、
 人に対して名前を()くのは、どこかはばかられた気がしたのだ。
 女の子の正体がわかったことだし、訊いても問題はないだろう。

「…妖精に名前はありません」
「はあ!? え!? じゃあ、テイリーにはなんて呼ばれてたの」
 急に暗いトーンで女の子が言い出すので。
 驚いて変な声が出てしまう。
「…テイリー様には、妖精や、虫・・・あとは、ピンク」
「ピンク? なんで、ピンク?」
 なんでと言ったと当時に、
 ぼふんと言う音と煙で女の子の身体が見えなくなったかと思うと。
 手のひらサイズの妖精が目の前に…机に立っている。
 驚きすぎて、声が出ない。
 自分が思い描いていていた妖精が、まさに目の前にいるのだから。

 目の前にいるのは、ピンク色の髪の毛に赤い瞳? 小さいので近寄らないと、はっきりとは言えないけど。服装は白いワンピース。背中には羽根らしきものがキラリと光る。
「本当の姿だと、髪の毛がピンク色なので」
 声が小さかったので、思わず顔を近づけて彼女の声を拾おうとする。
 そうか、その姿だったらテイリーに虫呼ばわりされるのも納得。
 いや、納得しちゃ失礼だよね。

「うーん…、私が考えちゃっていいのかな」
「是非ともお願いします!」
 潤んだ目で妖精が言うので。
 どうしようと、部屋を見渡すと。
 食器棚にある調味料が目に入った。
 透明な瓶の中に入った調味料の中で、スティック状のシナモンがあることに気づく。
「シナモン・・・」
 ぼそっと呟くと。
「シナモン! 素敵な名前ですね」
「え・・・いいの」
 目に入ったものを一つずつ挙げていこうと思っていたのに。
 一つ目の言葉に、妖精はすぐさま反応した。
「私の名前はシナモンでお願いします!」
 また、煙があがったかと思うと。
 人間の姿に戻った妖精・・・シナモンが嬉しそうに言った。
「全身全霊、アリア様に尽くしますっ」
「・・・あのさ、今の変身って魔法だよね?」
 妖精の姿になったり、人間の姿になるシナモンを見て顔を引きつりながら言うと。
「いいえ、妖精は魔力は持てないので。妖力です」
「ようりょく・・・じゃあ、いいのか」
 もう今日一日、色んなことがありすぎて。
 考えるのをやめた。
 なるほどと呟きながら、私は心の中で「あー、疲れた」と思った。