着替えて、とことこと階下に降りる。
 今、志弦はどこにいるのだろうか。

「志弦さん?」

 リビングにはいないようだ。二階に気配はなかったし、キッチンだろうか。
 彼の名前を呼びながらうろうろ廊下を歩き回っていると、がらっと、リビングの方で戸が開くような音がした。

 里央はすぐにリビングへと戻る。
 するとリビング奥に続いている部屋の戸を締める志弦を見つけた。
 黒のシャツにベージュのパンツ。いつもよりもかなりシンプルな装いをした彼は、その場に立ち尽くしたまま、里央を一瞥する。

「もう、起き上がって大丈夫なのか?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「まったくだ」

 そう言いながら彼は、ふらりと里央の隣をすり抜ける。

「……また倒れられても困るしな。メシくらいは食ってけ。それで、大人しく家に帰りな」
「志弦さん」
「で。もう二度と、この家には来るな。三叉路撮るのもやめろと言いたいが――あそこは、公共の場所だしなあ」

 はあ、と、彼はわざとらしくため息をつく。

「しつこく通い詰めても、もう俺は出ていかねえ。あんたがあそこに立っているかぎり。……ちと、迷惑だから。早めに諦めてくれると助かる」
「いやです」
「いやもなにもねえ。葵でも誰でもいい。もっと年の近い、あんたに似合いの男を見つけな。――俺みたいなスレたオッサンは、分不相応だ」

 ほら、やっぱり彼は線を引こうとする。

「いいかげん迷惑なんだよ。おまえみたいな、若いやつに振り回されるのは」

 そう言って彼は、里央に背を向ける。
 でも、簡単に諦めてなるものか。