がららら、と玄関戸が乱暴に開け放たれる。
 外に飛び出してきた誰かが、ばしゃばしゃと濡れた地面を駆け、崩れ落ちそうだった里央の体を抱きとめる。

「こんな日に! なんでこんなとこ来てんだ!?」

 ああ、久しぶりに見た。部屋着姿だ。
 多分二階の道路に面した部屋。あそこが、彼の寝室なのかもしれない。
 きっと里央の姿を見つけて、そのまますぐに飛び出してきてくれたのだろう。

「――志弦さん」
「おまえ、ばかだろ。なんの意地を張って――クソ!」

 足に力が入らない。
 ぎゅっと彼にしがみつく。すると、彼も里央に応えてくれて、強く抱きしめてくれた。
 腰に回った力強い両腕。ずっとほしかった感触に、里央は目を細める。

「なにやってんだよ、やめてくれよ、頼むから」
「……だって。やっぱり、会い、たくて」

 ぽろりと、考える前に言葉が溢れる。

(そっか。私、会いたかったんだ。志弦さんに)

 考えて、考えて、結局何も、頭の中で答えを出せていなかったけど。
 でもやっぱり、里央の中には彼だけがいて。

「勘違い、されたくない。私の好きなひとは、志弦さんだよ……?」

 瞬間、志弦の両目が大きく見開かれた。
 何度も何度も繰り返してきた言葉だけど、はじめて、ちゃんと彼に届いた気がする。

「里央」

 だって、名前。はじめて呼んでもらえたから。