夏色モノクローム

「あ、兄さんだ。どうしたんだろ」

 隣を歩く葵が呟く。
 パタパタと先に駆けていき、「兄さん!」と声をかける。

「おまえな、使うのはいいがシャッター開けっ放しにするなっていつも言ってるだろ」「あー、ごめん。時間ぎりぎりかもって焦っちゃって」「メールで言ってた子か? まあ、葵が本気になるのも珍し……」なんて。兄弟並んで話してて。
 身長、葵の方が高いんだ。とか。顔立ち、全然似てないじゃん。とか。いろいろ思うことはあるけれどもそれよりも。

 目が合う。

 振り向いた志弦と。ばっちりと、目が。


「あー……そうか。昨日、合コンって言ってたっけか」

 彼が眉根を寄せたのは、ほんのわずかの間。
 すぐに、葵とよく似た困ったような笑顔を見せて、言い放つ。

「なるほどな。やるじゃねえか。なかなかいい男、捕まえたな?」
「志弦さ――」
「身内の欲目抜きにしてさ。葵は甘っちょろいところはあるが、誠実だし、いい男だぞ」
「……」

 いやだ。

 そう思った。
 だって。今、志弦に線を引かれた。

 違う。と伝えたいのに、声が出ない。
 口をぱくぱくと開け閉めして――でも、彼の諦めたような笑みに、なにも言えなくなる。

 状況が分かっていないのか、葵が目を丸めて、里央と志弦を交互に見ていた。
「え、知り合い?」なんて悠長な質問に、里央も志弦も答えない。
 里央には今、志弦との間にはっきりと引かれた線しか見えない。