夏色モノクローム

「昨日も話したけどさ。僕、この辺には詳しいんだ。昔からよく通ってて」

 そう言いながら、彼は自然と遠回りになる道を選ぶ。
 あ、と思った。だって、この道の先には――、

「昨日、カメラの画面、ちらっと見せてくれたの。君が撮ってた三叉路。この先だろ?」

 そうだ。
 里央だけの秘密の場所がある。

「実は、家族……というか。家から出ちゃった僕の兄さんが、このあたりに住んでて」
「え?」
「兄さんってば、両親とは少し折り合いが悪いけど。僕は昔から兄さんっ子でさ。よくこっちに遊びに来てて」

 嫌な予感がした。
 知りたくないと思った。
 だって、もし彼が。
 杠葉の姓を持つあのひとが、葵の兄弟などというのであれば。

 なんだか、手を伸ばしてはいけないような――とても遠い存在に感じてしまいそうで。

「ああ、ほら。あそこだよ」

 葵が指をさす。
 いつもシャッターが閉まったままの車庫。でも、今はシャッターが開いていて。白の、とても高そうな外車が見える。

「兄さんはバイクだから。あの車庫はほとんど僕専用に使わせてもらってる。今も置かせてもらってるんだけど――やっぱり、乗っていくのは嫌?」
「……」
「どうしたの?」

 その車庫の前。
 腕組みしながら立っている人間がひとり。
 今日は淡いベージュのニットベストに白いTシャツ。それに濃いブラウンのテーパードパンツを合わせている。ゆるさのあるシルエットがとても綺麗だ。
 さりげない格好をした彼。こうして会えたら、いつもとびっきり嬉しいのに、今、里央の心はざわめくばかりだ。