夏色モノクローム

 葵はぽつぽつと、今回の合コンに参加した理由を教えてくれた。
 普段は断っているそうなのに、今回は相手が東ノ葉大学の学生だと聞いて、興味が出たから参加したのだとか。

「どうして? 東ノ葉大学って、普通のBラン大学ですよ?」
「なんていえばいいのかな。勝手な親近感」
「親近感?」
「うん。上中里のあたり、わりとよく行くから。あのあたりに通っているひとの話に興味があったんだ」
「漠然とした理由ですね」

 と言いながらも、共感できることもある。
 なんとなく好き、というところから始まる好意は、里央だって経験したことがあるから。

「でも、来てよかったと思う。君に会えたし」
「え?」
「一見冷めているようで、すごく、大事なものを持ってる君が、気になってる」
「……」

 本当に、よく見ている。
 多分、あのとき、カメラを見つめながら微笑んだ一瞬で、人格を読まれた。

 そっか。隠していることを見つけられるのって、気恥ずかしくもあり、嬉しいんだって思う。
 でも、里央の気持ちは別のところにある。

 ぎゅっと、手が強く握られる。
 葵はこちらを向いて、はにかむ様な笑みを浮かべて、はっきりと言った。

「ね、里央ちゃん。僕たち、付き合わない?」

 夜風が流れる。
 道行くひと幾人かに、会話を聞かれた。驚きと好奇で目を丸めたひとたちが、ふと振り返る。

 けれども、それも一瞬。
 東京のひとは、周囲のひとに案外無関心だ。
 だからこんな突然の告白も、簡単に夜の雑踏にかき消される。

「ごめんなさい」
「即答かあー。あー……」

 ぎゅっと、手を握りしめたまま、葵は困ったように眦を下げる。

「そっかあ。残念だな。あー…………そっか……」

 メトロの駅は、すぐそこだ。