夏色モノクローム

 どうやら先に帰るのは里央だけのようで、少し申し訳ない気もする。でも、友人もいいってくれているしお言葉に甘えよう。
 皆に手を振ってから、ひとりふらふらメトロの駅に向かおうとしたところで、後ろから声をかけられる。

「駅まで送ってくよ。二次会はあとで合流するからさ」

 葵だ。
 彼は他のみんなにひとこと断ってから、里央の隣に並んだ。
 先ほどふたりで抜けていたのは、ちょっとした噂になっていたみたいで、おっという冷やかしの声が上がる。

「なんだ、そのままふたりでホテルいっちゃえよ」
「ばーか! そういう冗談は失礼だろ? 行こう、里央ちゃん!」

 そう言って突然、手が繋がれた。
 どくん、と驚きで心臓が大きな声をたてるけれど、肝心の葵はこちらに顔を向けてくれない。彼が耳まで真っ赤にしているのは、お酒が回っているからだと思いたい。

 焦りながら、助けを求めるがごとくに友人たちを振り返る。が、彼女たちも揃って「やったじゃん!」と、背中を押す勢いだ。

 彼は緊張した様子で前を歩き――でも、すぐにはっとしたように、こちらを振り返る。

「ごめんね。もう少しふたりで話したくて、強引なことしちゃった」
「えっと。大丈夫です。夜ですし。送ってくれて、ありがとうございます」

 メトロの駅までは少し歩けば着く。
 気まずいけれど、五分も我慢すれば済む話だ。