夏色モノクローム

「あれ、今の――」
「だめです。やっぱり、おしまい」
「えーっ」

 横で非難の声があがるけれど、聞いてあげない。
 志弦のことを想うと、里央の表情はつい緩んでしまう。
 葵の声など聞こえなくなってしまって、代わりに、いつもだるだると外に出てくる志弦の姿が思い浮かんだ。

「……そんな風に笑うんだ」
「え?」

 葵の前でもつい表情が緩んでしまっていたらしく、里央ははっとする。

「なんだか君、ずっと心ここにあらずって顔してたけど。――こうして、優しい顔もするんだなって」
「そんな」
「好きになりそうかも」
「え」

 まさかの言葉に、目を丸めた。
 今までも、里央に興味を持ってくれる男の子は、それなりにいた。告白されたことだって何度かある。
 ただ、里央の方がどうしても、興味を持てない。
 今だってそうだ。葵の言葉に心を揺さぶられることはない。むしろ、ただただ困惑するだけだ。

「……中、戻りますか」
「おっと。かわされた」
「そういうのじゃ――」

 と、困惑していたところで、がちゃりと店の入口のドアが開く。
 葵の同級生の男の子が様子を見に来てくれたようだった。

「なんだよそこデキてふたりでバッくれ? この後、二次会行くよな?」

 ……いろいろつっこみたいことはある。デキてないし、バックレ……たつもりはあるけれど、二次会は行かない。
 少し困惑して見せると、隣に座っていた葵が気を利かせてくれた。

「里央ちゃん、親がキビシーんだって。だからそろそろ帰らないと――ね?」

 そういえば、実家暮らしだってどこかで言ってたっけ。実際は、親はゆるゆるではあるけれど。
 とてもありがたい提案で、便乗してこくこくと首を縦にふる。

「そうなんです。みんなには悪いけど」
「そっかー……ま、そういうのはしょうがないね。一次会だけでも、来てくれてサンキュ」

 葵の友達だけあって、強引な誘いもしない。スマートだなあと思いつつ、一旦席へと戻る。それから会計を済ませて、皆と一緒に店の外に出た。