夏色モノクローム

「やあ」

 顔を上げると、先ほど丁度目の前に座っていた男の子がそこにいた。
 ……よりによって、彼かと里央は思う。

「……(あおい)くん」
「名前覚えていてくれたんだ。ありがとう、里央ちゃん」

 合コン相手の好青年チームのひとりであり、今日の一番人気ではないか。
 名前は、葵。――杠葉(ゆずりは)(あおい)

(まさか、杠葉なんて苗字のひと、志弦さん以外にも出会うだなんて)

 東京には多い姓だったりするのだろうか。

「飲み過ぎた? 大丈夫かなと思って」
「さっき飲んだお酒、結構強くて」
「やっぱり。ほら、どうぞ。飲みなよ」
「ありがとうございます」

 水を手渡しながら、葵はごく自然に里央の隣に腰かけてくる。
 スキニーパンツがよく似合う細くて長い脚。白いシャツには淡い水色のドット刺繍が入っていて、とても爽やかだ。高級ブランドのロゴが小さく入っているのも、彼が着ているとまったく嫌味がない。

 事前に里央の友人が興奮しながら教えてくれたけれど、彼はどうも、大手家具メーカーであるユズリハの会長の孫だとか何とか。
 どこまで本当かよくわからないけれど、お金持ちの家で大切に育てられた男の子だっていうのはよくわかる。

「私は大丈夫です。ここで酔いさましてますから、戻って大丈夫ですよ?」
「それは残念だな。僕、君と話がしたくてここに来たのに」
「私と?」

 きょとんとして彼の顔を見つめていると、あははと大きな口を開けて彼は笑った。

「そんなに困らないでよ。本当に興味がないんだね。合コンとか、苦手?」
「どうも、数合わせ要員です」
「あはは、正直だなあ!」

 そうやって声に出して笑う彼に、ふと志弦の笑顔が被る。年も離れていれば、顔立ちも雰囲気も全然違うのに、不思議なものだ。
 唯一無二な志弦と被るのはどことなく不本意で、里央は距離感をとろうと心に決めた。