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「どうした、ずいぶん元気がないな」
「わかります?」

 試験期間の教育学部生というのはわりと暇人だ。里央は試験の代わりにレポート提出のみの授業を多く受講しているから余計に。
 今日で試験が終わる学生が約半分。里央自身も明日で終わりだ。
 だから半分くらいは夏休み気分。にもかかわらず、この日の里央は不満顔だった。

「明日も試験だっていうのに、夜に変な用事ができちゃって」
「夜?」

 どこの大学も浮かれた者たちが大勢いるこの時期、友人に「お願いだから!」と頭を下げられて、どうしても断れなかった。
 何がというと……つまり。

「……合コン」
「わはは!」

 ウケた。
 でもこれはあまり嬉しくない。

「おまえ、友達いたのか!」
「なんですその寂しい認識は。いますよ。そこそこ人付き合いはできるんですから」
「変わった趣味をしてるからな。一匹狼みたいなイメージが」
「志弦さんと一緒にしないでください」

 里央はぷくーと頬を膨らませる。
 そもそも、志弦というひとがいるのに、合コンなんて。同年代の男の子に今さら興味が持てる気がしない。

「学生の醍醐味だなあ! いいじゃねえか、行け行け。年相応のいい男捕まえてこいよ」
「捕まえてきませんよ。どーせ、数合わせですし。私、志弦さんひとすじだし」
「まあまあ、私見を広げるのはいいことだ」

 ……どうして、里央の気持ちを知っていながら、上機嫌に振る舞えるのだろうか。
 なんだか安心したような笑みを浮かべる志弦に対しても、ちょっとだけムッとしてしまう。

「だから。志弦さんが好きだって言ってるじゃないですか」

 精一杯、ダメ押しで伝えてみたけれど、綺麗に聞こえなかったふりをされた。