歳は三〇代半ばから後半くらい。
 少し猫背で細身の体。寝癖でくしゃくしゃのもっさりとした黒髪に、太い黒縁の眼鏡が印象的だ。
 顔の形は整っていると思うけれど、目つきは悪い。彼が纏う独特の雰囲気が、正当派イケメン認定を外していく。
 ちゃんとした服を着たらそれなりの雰囲気イケメンにはなるのだと思う。けれど、彼はいつも部屋着なのかパジャマなのか判断がつきにくい緩い格好をしていた。

 この日は、タイトめなグレーのTシャツに、カーキのズボンだ。
 ……ただ、いつも思うのだけれども、砕けた格好のわりには、そのTシャツがどうもお高そうに見える。
 素材感がいいというか、着心地がよさそうというか。よれたところもなくて、表情に似合わず清潔感もある。
 色んな部分で奇妙なちぐはぐ具合が妙に印象に残って、興味を持ったのがはじまりだった。

(ふふっ、志弦(しづる)さん、今日もとっても眠そう)

 だるだるで、ゆるゆるだ。
 起き起きに外に出てきているのだろうか。重たそうな黒縁眼鏡も、ずれて落ちてしまいそうだ。
 そんな彼は、里央がカメラを構えていることを気にすることなく、目の前を突っ切っていく。あえて里央の存在に気付かない素振りをされるのも慣れっこだ。

「志弦さん、おはようございます」

 だから里央は、いつものように自分から声を掛けてみた。
 そうしてようやく、彼は里央にはじめて気がついたかのような素振りをみせ、こちらに目を向けるのだ。
 毎度のことながら、そのわざとらしさが可笑しく感じる。

「んあ。おまえ。毎日毎日、よくやるな」

 挨拶の言葉すらない。ぶっきらぼうで冷たい、塩対応だ。
 でも彼は、里央が毎日この三叉路に撮影に来ていることは認識してくれているらしい。
 それが嬉しくて、里央は今日もはっきりと告げる。

「好きです」
「へいへいそうかい。ありがとよ」

 間髪入れずに捧げた愛の告白が、さらりとかわされるのも日常茶飯事だ。