彼に宣戦布告ばりのお礼宣言をした翌日。
 今日は火曜でも金曜でもないし、朝の時間帯でもないけれど、里央は再びあの家の前にいた。
 三叉路に面した、古びた外観の大きなお家。
 今日の授業は三限までで、雨の中、帰宅中だ。六月末で湿気が多いこんな日は、髪の毛をまとめるのにも苦労する。
 傘をさしたまま手櫛でささっと髪を整えてから、ピンポーン、とベルを鳴らして。ドキドキしながら十秒……二十秒。

《はい》

 なんとも気怠そうなあの人の声に、心臓がぎゅんと大きく揺さぶられる。

「佐代木です。昨日、助けて頂いた」
《……》
「昨日のお礼に、来ました」

 傷口は相変わらずひどいもので、腕の方は特に、内出血が広がって見るも無惨な状態である。そんな状態で、雨の中返事を待つ里央の姿が、インターフォンのカメラ越しに見えているのだろうか。
 志弦はじっと押し黙ったまま。でも多分、まだ通話は切られていない。

《はぁ……》

 重たいため息が返ってきた。
 けれどここで引いてはいけないと、里央はインターフォンに向かって語りかける。

「お菓子。買ってきました。せめて、受け取るだけでも」

 この顔で新宿の百貨店まで出るのはそれなりに勇気がいったけれど、昨日のうちにちゃっかり用意してきた。紙袋をカメラに向かってかざしてみせると、もう一度大きなため息が聞こえる。

《わかったよ。ちと、待ってろ》

 ぷつんと通信が途切れて、さらに十秒。誰かの足音が近づいてきて、玄関戸が開く。

「いいっつったのに。雨の中わざわざ、律儀だな」
「本当に、助かったので」

 などと殊勝なことを言いながらも、彼の姿を見た瞬間、里央は硬直した。