「私、昨夜は貴方を愛するつもりはありませんでした」

「そうか、いいよ」

「いいんですか?」

「俺はずっと片想いを続けるだけでいいよ」

「……ずっとじゃないかも」

グレイスが小さな声で呟く。


「俺からもお願いしていい?」

「何でしょう?」

「旦那様って呼ばないで」

「……」

「旦那様って柄じゃないから」

「じ、じゃあ、クリストファー様?」

「様は要らない、俺もグレイス様って呼んでないし、ただのクリストファーで」

「……わかりました
 クリストファー、どうぞよろしくお願い致します」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します
グレイス」


朝食を食べ終わった彼女が、スケスケを着替えたいと言ったので、俺は部屋を出た。

さすがに今日はおねだりしないが、いつか天使が俺に許してくれる夜が来たら、
彼女が言うところのスケスケを是非とも、もう
一度着て欲しい。


白い結婚の話は今夜しよう。
君の事が何より大切なんだ。
愛してると何回でも繰り返すよ。

殿下とイーサンの話も聞いて貰いたい。
昔から俺と一緒に、幼い君の笑顔を見てたから。
2人とも君の事を、大切な妹みたいに思ってる。


俺にはグレイスに聞いて欲しい話は山とあるが、それも徐々に話さないと、彼女がパンクしてしまう。


何せ10年だ。
話したいことは尽きない。
俺の人生のピークは、横ばい状態で何年も続くだろう。
今日から俺が死ぬまで、毎日少しずつ言葉にして伝えていこう。


まずは、俺が選んでしまった壁紙を見せて一緒に笑おう。
そして、サンプルのカタログから彼女の好みで選んで貰おう。

母と妹には『天使ちゃん』と本人に向かって呼ぶなと言っているが、多分カリーナは、ここぞの時を狙って、ぶち込んで来そうだ。
父に注意された様に、運命や後光の話は様子を見てからだ。


でも。
君は俺の天使、の話は隠さない。
絶対、誰かがグレイスにばらす。


それから。
何であの、一番遠い客室に入って貰ったか説明しよう。


ウチではあの客室は
『天使の間』と名付けられているから、と。


    おわり