23歳にもなって情けない。
グレイスと約束した前日はめちゃくちゃ気分が高揚するのに、帰ってくると自己嫌悪で、のめり込みそうになった。
何でか知らんが、俺は彼女の前では喋れなくなるのだ。

いい加減、婚約も成立したのだから彼女に慣れればいいのに……約束の日に現れる彼女は俺が覚えているより、何倍も何十倍も何百倍も何千……
可愛い過ぎて、心臓がもたない。
変な声が出そうで、掌で口を覆うことも度々だ。

ヘタな所を見せて嫌われたくない俺は、結婚式までデートをセーブすることにした。


夫婦の寝室と彼女の部屋の用意は、力を入れた。

ところが。
完成間近の部屋を見て、俺は愕然とした。

なんだ、これは!
可愛い彼女にはピンクが似合う、と思って自分なりに吟味した壁紙が何とも言えず下品な代物で、自分の頭をかきむしった。

かきむしる、なんて実際にしてる奴いないだろ、と思っていたが。
人は自分が仕出かしてしまったことに耐えられないと、頭をかきむしるのだ。
……少なくとも俺は。

気がついたら背後には母と妹が居た。

「私、何度もお兄様に言ったわよね
 あれでいいの? って」

確かにカリーナからは、何度か夫婦の寝室を確認せよ、と言われた。
だが、仕事が山積みで、結婚してから長い休暇が欲しかった俺はそっちを優先して、完成してからのお楽しみにしよう、と作業をチェックしていなかった。

「まあ変わったセンスだと思ったけれど、貴方
ちょっとねぇ……アレだし?」

母の事は敬愛しているが、今の『ちょっとねぇアレだし』発言は聞き流すべきか?