響はと言うと笑いを堪えきれずに一緒になって笑っている。

チラリと横目で見た響は声を殺して笑っているし、少し位は否定してくれるとか、庇ってくれるとかないの?

バカ、馬鹿っ、響の大馬鹿っ!

もう、どうしていいのか分からずに下を向くしか方法がない。

「足、崩しなさい。個室なんだし、かしこまる事ないわ」

相変わらず、冷たさが残る綺麗な顔立ちで、淡々と話す優子さん。

「懐石よりも、中華とかイタリアンの方が良かったんじゃない? 駄目ね、姉さんは。堅苦しくて困るわ……」

「母さんはきっと、少しでも優子さんが、まともに見えるようにしたかったんじゃない?」

「響もキツイ事、言うわね」

「貴方の息子ですから……」

育てのご両親には敬語だけれど、実のお母さんに対しては違うんだね。

やっぱり、血の繋がりは偉大なんだね。

響と優子さんが話していると、最初にオーダーした飲み物と先付けが届いた。

響と私は烏龍茶で優子さんは生ビール。

小さい生ビールのグラスを目の前に差し出されたから、ドキッとした。

「お近づきの印に乾杯しましょっ」

「はいっ」

“お近づきの印に”とカチンと合わせられたグラス。

心がすうっと軽くなった瞬間だった。

見た目で嫌われた訳じゃないと思っても良いの?

「ひよりさんは嫌いな物はないのかしら?」

「えぇ、とくには……」

「……そう。響との馴れ初めも聞いて帰りたいと思うんだけど?」

「えっと、あの、」

い、言える訳がない。

私が駿を忘れたくて、響を利用しようとした事がきっかけだなんて。

「俺が略奪したって言えば、満足か?」

りゃ……、略奪?

響は何を言い出すのかと思ったら、まさかのこんな事。

凄く嬉しい発言なんだけれど、お母さん前では恥ずかしすぎて顔が火照る。

「響ったら、大胆ね」

優子さんは箸で摘まんだ食べ物を口に入れようとしたけれど、響の発言により皿に戻してから箸を置いた。

「響はやっぱり、恭介(きょうすけ)さんの息子ね。いざとなったら大胆で、真っ直ぐに物を言う所なんかそっくりよ」

優子さんは遠い目をして、生ビールを飲み干す。

少しだけ、潤んだ瞳。

話からして、恭介さんとは響の実のお父さんなんだろう。