「おい、彰!何で昨日、砂月とサボったんだよっ」

朝っぱらから、席に座るや否や、後ろから駿介の長い足が、俺の椅子裏を蹴ってくる。

「うるせぇな、お前にラインもしたし、病欠って先生も言っただろ!」

「お前も砂月も、ピンピンしてんじゃねーかよ!俺が、昨日ゴリにどんな目に遭わされたのかわかってねーから、んなこと言えんだよっ」

駿介のすごい剣幕に、一瞬、俺は一歩下がった。

「あー……張り切ってたもんな、谷口先輩。悪かった……で?何された?」

駿介が、眉を顰めながら、腕組みした。

「まず筋トレが基本だとか、なんとか言い出して、俺は腹筋100回やらされた。ついでに彰の分もとか言い出しやがって、さらに100回。腕立て50回。50メートルダッシュ30本、そのあと、グランド50周」

思わず、口が開いていた俺を睨みつけると、駿介が、俺の額を思いっきり弾いた。

「痛ってーな!」

「お前が、砂月とイチャついてる間に、俺の腹筋は、崩壊したんだからな!あー、まじでお前とゴリにムカつくー……」

駿介は、口を尖らせて頬杖をついた。そして、すぐに少しだけ、駿介の目が見開かれる。
よく見れば、俺を睨みつけていた、駿介の視線が僅かにずれている。

「どした?」

駿介の視線の先を辿れば、藤野愛子が、教室入口で三年生の男子生徒と何やら話し込んでいる。

「藤野ってモテんだな」

砂月もめちゃくちゃ可愛いが、藤野は、綺麗と可愛いを足したような顔で、更には色気まであって、万人にモテる顔だと思う。

駿介は、黙ったまま、藤野と男子生徒を暫く眺めると、両手を後ろ手に回して、窓辺に目をやった。

(駿介のやつ、急に静かになったな……)  

「今日は来るだろ?」

「勿論」

「彰、俺負けねーからな」

「俺、走りで負けたことないんで」

唇を持ち上げた俺を眺めながら、駿介も愉快そうに笑った。