「彰ー、起きてよ、彰!」

 いつもの朝、砂月に揺すぶられる度に、いつもと同じ甘い香りがする。

「五分」 

 いつもと違うのは、俺の黒く染められた髪と、もう通い慣れた学校に行くことがない、ということ。俺達は、昨日、三年間お世話になった高校を無事に卒業した。

「嘘ばっかり!今日だけは遅刻したくないの!だって……わっ!」

 俺は、そのまま砂月を、布団ごと抱きしめる。

ぽすんと体重の軽い砂月が乗っかった。

「ちょ、っと、彰!」 

「ちょっとだけ」 

俺は、怒られると分かってて、砂月の頬にキスを落とす。そのまま、砂月の白い首筋に顔を埋めれば、甘い香りに、もう遅刻してもいいかと真剣に思ってしまう。

「待って待って!だめっ!」  

顔を真っ赤にして、バタバタと魚みたいに暴れる砂月に思わず笑った。

「笑わないで!」

「そういや、まだ、魚に憑かれた事はなかったよな」

俺は意地悪く口角を上げた。

「もうっ……意地悪」

拗ねたように怒る、なかなか砂月も可愛い。

「扉出て待ってるから」
 
「りょーかい」

俺が起き上がると、スウェットを脱ぎ捨てる前に、砂月がそそくさと扉を閉めた。