こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

久しぶりに帰ってきた自宅は、思っていたよりも静かだった。

(……こんなに静かだったっけ)

家具の配置も、置きっぱなしのマグカップも、
 全部“いつもの部屋”のはずなのに。

どこか、違って見えた。

「……ただいま」

小さく呟いてみても、返事はない。
 その静けさが、胸の奥にじんと染みた。

ソファに座ると、足が少し震えていることに気づいた。

(……怖い)

階段の感触。
 落ちる瞬間の浮遊感。
 誰かの叫び声。

思い出すだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。

「……大丈夫、大丈夫……」

自分に言い聞かせても、不安は消えなかった。

そのとき、スマホが震えた。

画面には 《玲奈ちゃん》の名前。

《退院おめでとう。
 無理しないでね。また話そうね》

優しい言葉。
 いつも通りの玲奈ちゃん。

なのに、胸の奥がざわりと揺れた。

(……どうして、こんなに怖いの)

“優しさ”が、まるで刃物のように感じられた。
 触れれば切れてしまいそうな、薄い笑顔。

自宅に戻ったはずなのに、
 心はまだどこにも帰れていなかった。