こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

ふと、バッグの中のスマホが震えた。

画面には 《玲奈ちゃん》の名前。

《退院するって聞いたよ。よかった。また話そうね》

優しい言葉。
 いつも通りの“玲奈ちゃん”。

なのに、胸の奥がざわりと揺れた。

(……どうして、こんなに怖いんだろう)

疑いたくない。
 友達だと思っている。

でも、事件の前後に浮かぶのは——
 いつも玲奈の顔だった。

「……明莉さん?」

楓が心配そうに覗き込む。

「いえ……なんでも、ないです」

言えなかった。
 まだ、言えない。

言葉にした瞬間、
 何かが壊れてしまう気がした。

胸の奥の黒い影は、
 まだ名前を持たないまま、
 静かに明莉の心に居座っていた。

楓はそれ以上追及しなかった。
 ただ、そっと明莉の肩に寄り添うように立っていた。

その優しさが、
 言えない痛みを少しだけ和らげてくれた。