こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

自分でも驚くほどまっすぐで、どうしようもないほどの想いだった。けれど、彼女は芸能人で、自分はただの学生。名前を呼ぶことすらできず、そのまま人混みに紛れていく後ろ姿を見送るしかなかった。

――もう会うことはないだろう。

そう思っていた。あの一瞬の恋は、胸の奥にそっとしまい込んで、二度と触れないはずだった。

なのに、今日。雨の中で倒れそうになっていたのは、あの日の少女だった。

濡れた髪。震える肩。泣き腫らした目。

あの笑顔はどこにもなかった。

胸が痛んだ。理由なんて考えるまでもなかった。

助けたい。
 守りたい。
 あの日、何もできなかった自分とは違う選択をしたかった。

楓は深く息を吐き、目を開けた。胸の奥に沈んでいた決意が、静かに形を持ちはじめる。

「……明日、医者に診てもらおう」

独り言のように呟く。明莉の身体は限界に近い。心も、きっとそれ以上に。

そして——彼女が立ち上がるまで、そばにいると決めた。

理由は、まだ言えない。言えば、彼女を困らせるだけだ。自分の想いを押しつけるつもりはない。

でも、いつか。

いつか彼女が笑える日が来たら。

そのときは、あの日のことを話してもいいのかもしれない。初めて心を奪われた日のことを。彼女の笑顔に救われた日のことを。

その未来を、静かに願いながら——楓はそっと目を閉じた。