こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

目がさめたとき、窓の外は薄い夕暮れの色に染まっていた。

(……また寝てしまった)

体はまだ重く、頭の奥がじんと痛む。
 けれど、すぐそばに座る人の姿を見つけた瞬間、
 胸の奥がふっと軽くなった。

「……楓さん」

呼ぶと、彼はすぐに顔を上げた。

「起きましたか。気分はどうですか」

その声が優しくて、涙が出そうになった。

「……すみません。また寝てしまって」

「いいんです。休むのが一番ですから」

楓はいつも通りの落ち着いた声で言う。
 その声に、胸の奥がじんわり温かくなる。

けれど——
 心の奥には、まだ黒い影が残っていた。

(どうして……落ちたんだろう)

階段の感触。
 足元の滑り。
 揺れる視界。

思い出そうとすると、胸がぎゅっと締めつけられる。

「……怖い、です」

気づけば、その言葉が口からこぼれていた。

楓は驚いたように目を見開き、
 すぐに優しく頷いた。

「怖いと思っていいんです。
 無理に強がらなくていい」

その言葉に、涙が一粒こぼれた。

強がりをやめた瞬間、
 胸の奥に溜め込んでいたものが、静かにほどけていく。

楓の声は、
 暗闇の中で灯る小さな光のように感じられた。