こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

明莉が眠る病室は、夜になるといっそう静かだった。

機械の規則的な音だけが響き、
 そのたびに楓の胸は少しだけ締めつけられる。

(……本当に、危なかった)

階段から落ちた瞬間の光景が、何度も頭の中で再生される。
 明莉の体が傾き、叫び声が響き、
 世界が一瞬止まったように感じた。

あの恐怖は、二度と味わいたくなかった。

明莉の手は細くて、触れると壊れてしまいそうだった。

「……守れなくて、すみません」

誰に向けた言葉なのか、自分でもわからない。
 ただ、胸の奥に渦巻く後悔と怒りが、静かに形を持ち始めていた。

(もう……偶然だとは思えない)

明莉の周りで起きていた“異変”は、すべて小さな点だった。

だが、事件を境に、
 それらが一本の線になっていく。

台本の紛失。
 小道具のすり替え。
 SNSの噂。
 スタッフの誤解。
 そして——玲奈の言葉。

点と点が繋がり、
 ひとつの“影”が浮かび上がる。

楓は静かに拳を握った。

(明莉さんを……もう二度と傷つけさせない)

その決意は、夜の静けさの中で、
 ひどく鮮明だった。