こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

救急車のサイレンが、こんなにも遠く聞こえるものだとは思わなかった。

明莉が担架に乗せられた瞬間、
 胸の奥が冷たく凍りついたようだった。

「佐伯さん、意識ありません! 脈はあります!」

スタッフの声が飛び交う。
 楓はただ、明莉の手を離さないように必死だった。

「……明莉さん、大丈夫です。僕がいますから」

その言葉は震えていた。
 自分でも驚くほどに。

処置室の前で待つ時間は、永遠のように長かった。
 白い蛍光灯の光が、やけに冷たく感じる。

(どうして……こんなことに)

階段の滑落。
 あれは“事故”に見えた。

だが、明莉の周りで起きていた小さな異変を思い返すと、
 胸の奥に黒い疑念が広がっていく。

台本の紛失。
 小道具のすり替え。
 SNSの噂。
 スタッフの誤解。

そして——
 玲奈の言葉。

(……偶然じゃない)

楓は拳を握りしめた。
 爪が食い込むほど強く。

(明莉さんを……誰かが傷つけようとしている)

その確信が、胸の奥で静かに、しかし鋭く形を持った。

処置室の扉の向こうにいる明莉を思うだけで、
 胸が焼けるように痛んだ。

(守る。必ず……守る)

その誓いは、もう揺らがなかった。