こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

廊下で玲奈とすれ違う。

「明莉ちゃん、おはよう。今日も頑張ろうね」

優しい声。
 柔らかい笑顔。

なのに、その瞳の奥にある光が怖かった。

「……うん。ありがとう」

笑い返すと、玲奈は満足そうに微笑んだ。
 その笑みが、胸の奥に小さな棘を残した。

撮影直前、スタッフが慌てて走ってきた。

「佐伯さん! 小道具の棚が……!」

見ると、明莉が触る予定だった棚が固定されておらず、大きく傾いていた。

「危なっ……!」

スタッフが支えた瞬間、棚が大きく揺れた。

(……もし私が触っていたら)

背筋が冷たくなる。

「ごめん! 誰かが移動させたみたいで……!」

誰か。
 誰かが。

胸が強く脈打った。

休憩中、玲奈が近づいてきた。

「さっきの……怖かったね。でも気をつけないと。
 明莉ちゃん、最近ぼーっとしてるから」

その言葉に、心臓がぎゅっと縮んだ。

「……私のせい、なの?」

「ううん。ただ……危ういなって。
 みんな心配してるよ?」

優しい声。
 柔らかい笑顔。

でも、その優しさが痛かった。
 まるで、胸の奥の柔らかい部分をそっと押しつぶすように。