こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

帰り道、明莉はほとんど話さなかった。

「……明莉さん」

「はい……?」

「何か、ありましたか」

明莉は少しだけ笑った。
 その笑みは、光よりも影のほうが濃かった。

「……大丈夫です。私が弱いだけですから」

その言葉が、楓の胸を強く締めつけた。

(違う。弱いのではない。
 誰かが……彼女を追い詰めている)

だが、明莉は何も言わない。
 言えないのだ。

優しいから。
 自分を責める人だから。

明莉を送り届けたあと、楓はひとり車の中で目を閉じた。

(このままでは……彼女が壊れる)

明莉は限界に近い。
 それでも笑おうとする。
 誰も責めない。
 自分だけを責める。

だからこそ、楓が動かなければならない。

「……守る。何があっても」

その言葉は、静かだが揺るぎない誓いだった。

そして楓は気づいていた。

明莉の周りで起きている“偶然”は、もう偶然ではない。
 影は確実に、彼女のすぐそばまで迫っている。

その影の輪郭が、ようやくはっきりと見え始めていた。