こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

翌朝、目が覚めた瞬間、胸の奥に重たい石が沈んでいるような感覚があった。

昨日の撮影。
 インタビューの刺さる言葉。
 震える手。
 楓の声。

全部が、まだ身体のどこかに残っている。

でも——今日はドラマの顔合わせだ。

逃げられない。
 逃げたくない。
 逃げたら、きっとまた戻れなくなる。

明莉はゆっくりと起き上がり、鏡の前に立った。

「……大丈夫。大丈夫」

声に出すと、少しだけ呼吸が整った。

車窓から見える街は、昨日と同じように動いている。
 でも、自分だけが取り残されているような気がした。

(みんな普通に生きてるのに……どうして私は、こんなに怖いんだろう)

胸がぎゅっと縮む。

そのとき、スマホが震えた。

「無理をしないでください。
 あなたが行くと決めたなら、僕は信じます」

短いメッセージなのに、涙が出そうになった。

(……どうして、この人はこんなに優しいの)

理由はわからない。
 でも、その優しさに救われている。

スタジオに入ると、昨日と同じように空気が揺れた。
 視線が一瞬だけ止まる。
 すぐに逸らされる。

「佐伯さん、お久しぶりです」
「戻ってきてくれてよかった」

優しい言葉もある。
 でも、どこか距離がある。

(……仕方ないよね)