こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

濱崎佑輔が亡くなった日から、楓の時間は止まっていた。

仕事に行っても、会議に出ても、誰かと話しても、
 心はどこにもなかった。

佑輔のいない世界は、色が抜け落ちたように見えた。

葬儀の日、明莉は泣き崩れていた。

その姿を見て、楓は胸が裂けるような痛みを覚えた。

——守れなかった。

佑輔も、明莉も。

楓はただ立ち尽くすしかなかった。

重森家の人間として、形式的な挨拶を求められたが、
 そんなものはどうでもよかった。

ただ、親友の棺に触れたかった。

葬儀が終わると、重森家の人間たちはすぐに楓を囲んだ。

彼らにとって、佑輔の死は“ニュースの一つ”でしかない。
 楓がどれほどの喪失を抱えているかなど、
 誰も理解しようとしなかった。

——だから嫌なんだ。
 ——この家も、この名前も。

楓は静かに席を立った。

「今日は帰ります」

それだけ言って、重森家の視線を背に外へ出た。