こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

逃げたくなる。
 でも、逃げたらまた同じだ。

明莉は深く息を吸い、震える声を押し出した。

「……私は、前に進みたいだけです。誰かのためじゃなくて、自分のために」

その言葉は、自分自身に向けた宣言のようだった。

記者は一瞬だけ黙り、「ありがとうございます」と頭を下げた。

撮影が終わり、控室に戻った瞬間、明莉は椅子に座り込んだ。

「……怖かった……」

涙がこぼれる。
 でも、今日は逃げなかった。

スマホを取り出し、楓の名前を押す。

「……もしもし……終わりました……」

電話越しの楓の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。

「よく頑張りました。あなたは強い人です」

その言葉に、明莉はまた涙を流した。

別の場所。

白石玲奈は、撮影現場の写真を見て微笑んでいた。

「戻ってきたんだ……明莉」

その声は甘く、けれど底に冷たい狂気が潜んでいた。

「大丈夫。あなたはまだ、私の“友達”だよ」

その言葉の意味を、明莉はまだ知らない。