こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

高瀬は資料を広げながら言った。

「まずは、無理のない範囲で活動を再開しよう。バラエティやイベントはまだ避ける。最初は雑誌のインタビューからだ」

明莉は小さく頷いた。

「……お願いします」

「ただし――」

高瀬は少しだけ表情を曇らせた。

「最近、君の写真がSNSに出回っている。カフェで働いているって噂も」

明莉は息を呑んだ。

「……すみません」

「謝る必要はない。でも、復帰する以上、“明莉は元気に戻ってきた”という印象を作る必要がある」

その言葉は厳しいようで、でも現実を教えてくれる優しさでもあった。

「……大丈夫です。やります」

明莉の声は震えていたが、その目はまっすぐだった。

高瀬は静かに頷いた。

「よし。じゃあ、まずは復帰コメントを出そう。内容は僕が用意するけど……最後の一文だけ、君の言葉で締めてほしい」

「私の……言葉で?」

「そうだ。君が“戻りたい”と思った理由を、短くでいい。それがファンに届く」

明莉は胸に手を当てた。

——戻りたいと思った理由。

それはひとつしかなかった。

「……もう一度、自分の人生を生きたいからです」

高瀬は微笑んだ。

「いい言葉だ。それでいこう」

その微笑みが胸に静かに染みていき、
 明莉は小さく息を吸い込んだ。

——私は、戻る。
 逃げていた場所に、もう一度立つ。

胸の奥で、小さな灯りがふっと強くなった。