こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

「もう一度……自分の場所に戻りたい。
 逃げたままじゃ、終われないから」

明莉の声は震えていた。
 けれど、その震えの奥には、確かな意志があった。

楓は静かに頷いた。

「わかりました。
 あなたが望むなら、僕が支えます」

その言葉に、涙がこぼれた。

「……怖いです。でも……戻りたい。
 私は演技することが大好きだから……。
 もう自分からも、仕事からも……逃げたくない」

言葉にした瞬間、胸の奥にずっと刺さっていた棘が、
 少しだけ抜けた気がした。

「怖くても大丈夫です。
 あなたはひとりではありません」

楓の声は、まるで誓いのようだった。
 静かで、揺るぎなくて、
 明莉の心の奥にそっと灯りをともす。

その灯りは、
 今日の痛みよりも、
 明日の希望のほうが少しだけ強いと教えてくれた。

白石玲奈は、明莉の“復帰の噂”を耳にしていた。

「……戻るの? あの子が?」

玲奈はゆっくりと笑った。

「いいよ。戻ってきて。
 そのほうが……壊しがいがある」

その声は甘く、
 けれど底に冷たい狂気が潜んでいた。

画面の光が、玲奈の瞳に不気味な影を落とす。

明莉が前に進もうとするほど、
 玲奈の執着は深く、暗く、歪んでいく。

静かな夜の裏で、
 確実に“何か”が動き始めていた。