こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

楓はゆっくりと近づき、触れない距離で言った。

「明莉さん。
 あなたは、どこにいたいですか」

その問いに、明莉は息を呑んだ。

どこにいたいのか。
 どこで生きたいのか。

逃げるように芸能界を離れた。
 でも、カフェで働くうちに気づいた。

——私は、誰かに見られることが怖いんじゃない。
 ——誰かに“どう思われるか”が怖いだけ。

でも、今日の出来事で思った。

逃げても、追いかけてくる人はいる。
 逃げても、噂は消えない。

なら——
 逃げ続ける場所にいても、何も変わらない。

胸の奥で、小さな灯りがふっと揺れた。

「……戻りたいです」

明莉は小さく、でもはっきりと言った。

その声は震えていたけれど、確かに前を向いていた。

楓はその言葉を、まるで宝物のように受け止めた。

静かに、深く、頷いた。

その頷きは、
 “あなたの選んだ道を支える”という
 揺るぎない誓いそのものだった。