こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

店内は静まり返った。

「……ごめんね、明莉ちゃん。守りきれなくて」

美咲の声は震えていた。

明莉は首を振った。

「美咲さんのせいじゃありません。
 私が……ここにいるから」

その瞬間、胸の奥で、何かが崩れた。
 小さな音もなく、静かに、確実に。

その日の夜、楓が迎えに来たとき、明莉は笑えなかった。

いつもなら無理にでも笑顔を作るのに、今日はどうしてもできなかった。

「……今日は、つらい日でしたか」

楓の声は静かで、優しかった。
 触れたら壊れてしまうものを扱うような、慎重な温度だった。

楓は美咲から事情を聞いて知ってはいた。
 けれど、明莉が自分の口で話してくれるまで、何も言わずに待とうと決めていた。

明莉は俯いたまま、震える声で言った。

「……私、ここにいても……
 誰かの迷惑になるだけです」

その言葉は、自分を責める刃のようだった。

楓は少しだけ目を細めた。
 怒りではない。悲しみでもない。

ただ——
 “そんなふうに思わせてしまった世界”への静かな痛み。

「迷惑ではありません。
 あなたは、誰の迷惑にもなっていません」

「でも……私がここにいるせいで、店にも……
 美咲さんにも……」

明莉の声は涙で震えていた。

喉の奥がつまって、言葉がうまく出てこない。

自分が存在するだけで、誰かを困らせてしまう気がして——
 胸が苦しくてたまらなかった。