こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

SNSの炎上から数日が経った。

明莉はカフェに立つたび、誰かの視線を感じるようになっていた。

スマホを向けられることも増えた。
 ひそひそ声も、聞こえないふりをするのが限界に近かった。

——ここは、私の居場所じゃないのかな。

そんな思いが、胸の奥で静かに膨らんでいく。

ある日、若い女性客がレジに来た。

明莉が「いらっしゃいませ」と言うと、その女性はあからさまに笑った。

「本物だ。ねえ、写真撮っていい?」

「……申し訳ありません。店内での撮影は——」

「なに? 仕事がないからこんなところにいるんでしょ。
 落ちぶれた女優のくせに、偉そう」

その言葉は、刃物のように胸に刺さった。

呼吸が一瞬止まる。
 足元がふらつく。

美咲がすぐに間に入り、女性を外へ出した。

「お客様、従業員への迷惑行為は控えていただけますか」

「私は何もしてないのに。こんな店、SNSで上げてやるわ」

その女性は啖呵を切って出ていった。

扉が閉まった瞬間、店内に静寂が落ちた。

明莉の胸の奥で、何かがきしむように痛んだ。

(……まただ。
 私は……どこに行っても……)

喉の奥が熱くなり、視界が滲む。

でも、泣くわけにはいかなかった。

ここで泣いたら、“弱い自分”に戻ってしまう気がした。

明莉は、震える指先を隠すように、エプロンの端を握りしめた。