こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

カフェで働き始めて数日。

明莉は、店の外で誰かに見られているような気がした。気のせいかもしれない。
 でも、背中に視線が刺さるような感覚が、ふとした瞬間に走る。

ある日、店の前でスマホを向けられた。

「……え?」

気づいた瞬間、相手は走り去った。足音だけが、乾いた路面に消えていく。

美咲が心配そうに駆け寄る。

「大丈夫? 最近、変な人が多いのよ」

明莉は笑ってみせた。

「大丈夫です。気のせいかもしれないので……」

でも、胸の奥がざわついていた。

——誰かに見られている。

その感覚は、日に日に強くなっていった。風の音さえ、誰かの気配に聞こえてしまう。

その頃。

白石玲奈は、SNSで明莉の“目撃情報”を見つけていた。

《佐伯明莉、カフェでバイトしてるって本当?》
《落ちぶれたね》
《写真撮ったけど、これ本人?》

玲奈はゆっくりと笑った。

「……見ぃーつけた」

その声は甘く、けれど底に冷たい狂気が潜んでいた。

画面に映るぼやけた写真の中で、明莉は確かに笑っていた。

その笑顔が、玲奈の胸の奥に“許せない”という黒い感情を静かに広げていく。

静かな日常の裏で、
 確実に“何か”が動き始めていた。