こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

最初の仕事は、テーブルを拭いたり、食器を下げたり、簡単なことばかりだった。

でも、明莉にとっては——それは“外の世界に戻るための、最初の一歩”だった。

「ありがとう」

「助かるよ。ゆっくりでいいからね」

美咲の言葉が、胸に染みた。優しさが、まるで温かい布のように心を包んでいく。

——こんなふうに優しくされるの、久しぶりだ。

芸能界では、“ありがとう”より“もっと頑張って”のほうが多かった。常に期待され、常に求められ、息をする余裕すらなかった。

ここは違う。
 ここは、息ができる場所だった。

仕事が終わると、楓が迎えに来てくれた。

「どうでしたか」

「……疲れたけど、楽しかったです」

明莉がそう言うと、楓はほんの少しだけ目を細めた。

「それは……よかったです」

その声は、どこか安堵していた。胸の奥で、そっと息をつくような響きだった。

明莉が外の世界に触れ、笑って帰ってきた——その事実が、楓にとって何よりの救いだった。

夕暮れの光が、二人の影を静かに重ねていた。