こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

カフェで働くことになったのは、楓が静かに提案してくれたからだった。

「外に出るのは怖いかもしれませんが……ここは、僕の知り合いの店です。
 あなたが安心して働ける場所だと思います」

その言葉に、明莉は胸が少しだけ温かくなった。

——外の世界に戻るのは怖い。
 でも、ずっと家に閉じこもっているのも違う気がする。

明莉は小さく頷いた。

「……やってみたいです。
 できるかどうかはわからないけど……」

楓は優しく微笑んだ。

「できなくてもいいんです。やってみようと思えたことが大事です」

その言葉が、そっと背中を押してくれた。

店の名前は「灯」。木の温もりがあふれる、小さなカフェだった。

扉を開けた瞬間、コーヒーの香りと、柔らかな光が迎えてくれる。

店主の女性・美咲は、柔らかい笑顔で明莉を迎えた。

「楓くんから話は聞いてるよ。
 無理しないで、自分のペースでね」

その言葉に、明莉は胸がじんとした。

芸能界では、“無理しないで”なんて言葉、ほとんど聞いたことがなかった。

「……ありがとうございます」

明莉は深く頭を下げた。その動作ひとつにも、胸の奥がじんわりと温かくなる。

ここは、
 “頑張らなくてもいい場所”なのかもしれない。

そう思えた瞬間、明莉の心に、小さな灯りがともった。