こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

明莉の母は、産院のロビーで小さな花束を抱えていた。
 胸がどきどきして、落ち着かない。

(……明莉……本当に、お母さんになるんだ)

娘が生まれた日のことが、
 昨日のように思い出される。

泣き虫で、
 優しくて、
 人の痛みにすぐ気づく子だった。

その子が——
 今、自分の子を抱いている。

病室の扉を開けると、
 明莉が赤ちゃんを胸に抱き、
 優しい目で見つめていた。

「……明莉……」

声が震えた。
 娘の姿が、あまりにも美しくて。

「お母さん……」

明莉が微笑む。
 その笑顔は、少女の頃と同じで、
 でもどこか“母の顔”になっていた。

「……おめでとう。本当に……おめでとう」

母はそっと赤ちゃんを抱かせてもらった。
 小さくて、温かくて、
 胸の奥がじんわりと満たされていく。

「……この子……明莉の子なのね……」

「うん……」

明莉の目にも涙が浮かんでいた。

「お母さん……私、ちゃんとできるかな」

その言葉に、
 母は娘の手をぎゅっと握った。

「できるわよ。
 あなたはずっと、人の痛みに寄り添ってきた子。
 その優しさは……きっとこの子を守る力になる」

明莉は涙をこぼしながら笑った。

「……ありがとう」

母は赤ちゃんの小さな手をそっと撫でた。

「佑輔くん……ようこそ。
 あなたのお母さんはね、とても強くて、とても優しいのよ」

その言葉に、
 明莉は静かに涙を流した。

(……娘は、ちゃんと前へ進んでいる)

喪失の痛みを抱えながら、
 それでも未来へ歩き続けた娘。

その腕の中に、
 新しい命が眠っている。

(……ありがとう、明莉。
 あなたが幸せでいてくれることが……何より嬉しい)

母はそっと娘の髪を撫でた。

その瞬間、
 “家族”という言葉が、
 世代を越えて静かに繋がっていった。