こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

佑輔を寝かしつけたあと、私はそっとベランダに出た。
 夜風が頬を撫で、静かな空気が胸の奥まで染み込んでいく。

家の中からは、微かに佑輔の寝息が聞こえていた。
 その音は、まるで未来の鼓動のように優しく響いていた。

隣に楓が立つ。
 肩が触れるか触れないかの距離で、同じ夜空を見上げていた。

「明莉……佑輔の名前、本当に良かったな」

「うん。あの子が生まれてきてくれた瞬間、“佑輔”って呼ぶのが自然だった」

言葉にすると、胸の奥がじんわりと温かくなる。
 名前はただの記号じゃない。
 あの子の未来を照らす、小さな灯りだ。

楓は私の手を握った。
 大きくて、温かくて、あの日からずっと変わらない手。

「明莉。俺たち、ちゃんと未来をつかんだんだな」

「うん……あなたとだから、つかめたんだよ」

楓は少し照れたように笑った。
 その笑顔は、昔よりも柔らかくて、父親の顔になっていた。

「父さんが言ってたよ。“楓は次期社長としても父としても、よくやっている”って」

その言葉に胸がじんわりと熱くなる。
 楓は、重森の跡継ぎとしての責任も、
 夫としての優しさも、
 父としての愛情も——
 全部抱えながら、前に進んでいる。

私は空を見上げた。

喪失から始まった物語は、
 楓に支えられ、
 楓の家族に迎えられ、
 そして今——小さな命へとつながっている。

(……未来は、こんなにも優しい)

佑輔の寝息が、静かな夜に溶けていく。
 その音は、私たちの未来を照らす小さな光のようだった。

楓がそっと私の肩を抱いた。
 その温もりに身を預けながら、私は静かに目を閉じる。

——光は、いつだって前にある。

その言葉が、夜空の下でゆっくりと胸に落ちていった。

もう、過去に縛られることはない。
 私たちは、未来へ向かって歩いていく。
 家族という光を抱きしめながら。