こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

その言葉に、胸の奥がまたじんわりと温かくなる。
 “家族”という言葉が、少しずつ、確かに、私の中に根を下ろしていく。

楓はスマホをテーブルに置き、ふっと息をついた。

「……なんか、変な感じだな」

「変……?」

「うん。昨日までと同じ家なのに……全部が違って見える」

その言葉に、思わず笑ってしまった。

「私も……そう思ってた」

楓は少し照れたように笑い、 湯気の立つ味噌汁をひと口すすると、 目を細めた。

「……ああ、幸せだな」

その一言が、胸の奥に静かに落ちていく。

(……幸せ……)

その言葉を、こんなふうに真正面から受け取れる日が来るなんて、少し前の私は想像もできなかった。

喪失の痛みで呼吸すら苦しかった日々。
 誰かの優しさに触れるたび、
 自分が壊れてしまいそうで怖かった。

でも今——
 楓の隣で、こうして朝を迎えている。

それだけで、胸の奥がじんわりと満たされていく。

「明莉」

名前を呼ばれ、顔を上げると、
 楓が真っ直ぐに私を見ていた。

「これからも……こうして一緒に朝を迎えたい」

その言葉は、
 誓いでも、約束でもなく、 “願い”のように静かだった。

私はゆっくりとうなずいた。

「……うん。私も……そう思ってる」

楓は嬉しそうに微笑み、
 テーブル越しにそっと私の手を取った。

その手は温かくて、 迷いがなくて、 まるで「ここにいていい」と告げるようだった。

窓から差し込む朝日が、 二人の影を柔らかく重ねていく。

(……私は、もう一人じゃない)

その実感が、 静かに、確かに胸の奥に広がっていった。