こわれた私を拾ってくれたのは優しすぎる彼でした

扉の向こうには、光が満ちていた。

式場のホールから流れてくる柔らかな音楽が、 胸の奥の緊張をそっと撫でていく。

楓の父は、明莉の手を包んだまま、 ゆっくりと歩き出す前の呼吸を整えるように言った。

「明莉さん。今日は……あなたの人生の節目です。
 どうか胸を張って歩いてください。
 あなたは、うちの家族にとって“誇り”です」

その言葉に、胸が熱くなる。
 涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えた。

(……誇り……私が……?)

喪失の痛みを抱え、
 自分の価値を見失い、
 何度も立ち止まってきた自分が——
 “誇り”と呼ばれる日が来るなんて。

楓の父は、明莉の震える指先に気づいたのか、
 そっと手を握り直した。

「大丈夫。楓が選んだ人だ。
 私たちも……あなたを選びます」

その一言が、胸の奥に深く染み込んだ。

扉の前で立ち止まると、スタッフが静かに合図を送る。

「新婦入場です」

扉がゆっくりと開いていく。

眩しいほどの光が差し込み、
 会場の視線が一斉にこちらへ向けられる。

けれど——
 明莉の目に映ったのは、ただひとり。

バージンロードの先で、
 白いタキシード姿の楓が立っていた。

その瞳は、 迷いも不安もなく、
 ただまっすぐに明莉だけを見ていた。

(……ああ……)

胸の奥が、静かに、確かに震えた。

楓の父が小さく囁く。

「行きましょう。あなたの未来へ」

明莉は深く息を吸い、
 震える足を一歩、前へ。

その瞬間——
 世界が静かに動き始めた。

光の中で、
 明莉のドレスがふわりと揺れ、 バージンロードに白い影が落ちる。

その影は、
 もう“喪失”ではなく——
 “選んだ未来”へ向かう影だった。